中部九州阿蘇カルデラ形成前・後のマグマ供給系に関する研究

阿蘇火山は,約27〜9万年前までに4回の大規模火砕噴火(Aso-1〜Aso-4)を起こした火山です.それら噴火によって,阿蘇火山直下のマグマ溜りから膨大な量のマグマが放出され,火山体は陥没し,カルデラが形成されたといわれています(小野・渡辺,1985;阿蘇火山地質図).阿蘇火砕流堆積物の分布が山口県にまで広がっていることから,火砕流は海を渡ったと考えられています.その阿蘇火砕流に伴った火山灰(Aso-4火山灰)は,遠く離れた北海道でも確認されています(渡辺,2001;阿蘇火山の生い立ち).

阿蘇カルデラを形成したような大規模火砕噴火というのは,周辺地域社会にとって脅威です.よってカルデラ形成大規模火砕噴火について理解することはとても重要であると考えられます.我々は火山噴出物の岩石学的研究によって,マグマ供給システムの長期的な変化を調べています.特に,カルデラ形成大規模火砕噴火の前・後の火山噴出物に注目して研究を行っています.それらの噴出物から得られる情報は,カルデラ形成噴火に至ったプロセスや,今後再び大規模火砕噴火が起こるのかどうかを知る重要な手がかりになると考えられます.

カルデラ形成後の火山活動Post-caldera volcanism
カルデラ形成後も阿蘇火山の活動は継続し,複数の成層火山やスコリア丘などからなる中央火口丘群が形成されました.現在活動中の中岳(↓左写真)も,中央火口丘群のうちの一つです.現在地表で確認できる中央火口丘群の給源火口は17個以上で,地形・火山層序によって識別できるカルデラ形成後火山噴出物は約30ユニットに及びます(小野・渡辺,1985;渡辺,2001;増田ほか,2004;宮縁ほか,2004).


(左写真)現在活動中の中岳第一火口,(右写真)左から,米塚,往生岳,杵島岳.

カルデラ形成後の火山噴出物
阿蘇火山には玄武岩から流紋岩まで幅広い化学組成を示す火山噴出物が分布しています.下の写真は,阿蘇カルデラ形成後に活動した中央火口丘群からの噴出物の薄片写真です.三好ほか(2005,火山)では,これらの詳細な岩石記載を行いました.


↑左から,両輝石流紋岩,両輝石黒雲母流紋岩,両輝石デイサイト.

↑左から,無斑晶質両輝石安山岩,斑状両輝石安山岩,かんらん石両輝石玄武岩.

火口の分布とその噴出物
中央火口丘群の分布と,それらからの火山噴出物の化学組成との関係も調べてみると,どうやら玄武岩質マグマがカルデラ中央部,安山岩〜流紋岩質マグマがその周辺で活動したということがわかりました(下図の赤色▲が玄武岩マグマを噴出した火口:三好ほか,2005).この火口の分布の特徴は,カルデラ形成後のマグマ供給系を明らかにする上で重要であると考えられます.


↑火口の分布と火山噴出物の全岩化学組成との関係.


カルデラ形成前の火山活動Pre-caldera volcanism
カルデラを形成した大規模火砕噴火の前(約220〜30万年前)にも,阿蘇では火山活動がありました.元あった火山体の地形こそ残されてはいないものの,阿蘇外輪山やその周辺にはカルデラ形成前の火山活動による噴出物が断片的に露出しています.噴出物は分厚い溶岩(↓右写真)が主体であることから,カルデラ形成期の大規模火砕噴火の前の火山活動は,広範囲に及ぶ溶岩流の噴出で特徴付けられそうです.それらカルデラ形成前の火山噴出物は,『先阿蘇火山岩類』(小野,1969)と呼ばれています.

(左写真)大観峰からみた東側外輪山,(右写真)北側外輪山の採石場跡の溶岩露頭.
カルデラ形成前の火山噴出物
カルデラ壁やその周辺地域には,カルデラが形成される前(200万年前〜40万年前)に噴出した溶岩および火砕岩(先阿蘇火山岩類)が分布しています.先阿蘇火山岩類も,玄武岩から流紋岩まで幅広い化学組成を示しますが,どうやらカルデラ形成期や形成後の火山噴出物とは少し記載岩石学的特徴が異なるようです.下の写真は,カルデラ壁を構成する先阿蘇火山岩類の薄片写真です.三好ほか(2009)(地質学雑誌)では,これらの詳細な岩石記載を行いました.カルデラ形成期〜形成後の火山噴出物には普通角閃石斑晶がほとんど含まれないのに対し,先阿蘇火山岩類には多く含まれます.


↑左から,普通角閃石黒雲母流紋岩,両輝石普通角閃石デイサイト,普通角閃石安山岩.

↑左から,両輝石安山岩,かんらん石普通角閃石両輝石安山岩,かんらん石単斜輝石玄武岩.


これまでの研究成果

1.阿蘇カルデラ形成後噴出物の組成多様性とその成因 (三好ほか,2005,火山

2.カルデラ形成後には複合溶岩流も噴出していた(三好ほか,2007,岩石鉱物科学

3.先阿蘇火山岩類の岩石学的特徴は後カルデラ期噴出物のそれとは異なる (三好ほか,2008 & 古川ほか,2008,地質学雑誌

4.Sr同位体比と微量元素組成からみたAso-4マグマと後カルデラ期マグマの成因関係(Miyoshi et al., 2011, JMPS

5.阿蘇カルデラ基盤岩(花崗閃緑岩・変成岩)の岩石学的特徴.地殻同化作用を議論する上で必須の情報 (三好ほか,2011,地質学雑誌

6.阿蘇カルデラ形成後噴出物のK-Ar年代 (Miyoshi et al., 2012, JVGR