ホウ素をトレーサーとしたマントル−地殻間物質循環の研究

ホウ素?
ホウ素は地球上で海洋底堆積物や変質海洋地殻に多く(>100 ppm)含まれ,マントル物質中にはほとんど含まれない(〜3 ppm)元素です.ホウ素をたくさん含んだ海洋プレートが沈み込む島弧などで生成される玄武岩は,海洋島型玄武岩やMORBに比べて著しくホウ素に富んでいます(下図).これは,島弧下マントルへと沈み込んだ海洋プレートが,ホウ素に富む流体を放出し,その流体が島弧下マントルに付加した証拠であると考えられます.さらにホウ素は他の液相濃集元素に比べて流動性に富むため,海洋プレート由来流体と最も仲の良い(=流体に濃集する)元素であるといえます.よって玄武岩中のホウ素は,その起源マントルが海洋プレート由来流体の影響をどの程度被ったかを見積もる上で有効なトレーサーであると考えられます.また,成因がよく判っていない未知玄武岩試料などに関して,そのマグマ生成のテクトニックな背景の判別にも力を発揮すると期待されます.

図:異なるテクトニクス場における玄武岩類と,海水,地殻,マントルのホウ素含有量.

分析手法
ホウ素の分析は,日本原子力研究開発機構 東海研究開発センター JRR-3号炉で 「即発ガンマ線分析」という手法を用いて行っています(詳細は米沢,2002, 分析化学).ホウ素の定量分析手法としては,即発ガンマ線分析の他にもICP-AESやICP-MSなどがあります.それらの手法では,岩石試料を融解する必要がありますが,即発ガンマ線分析では,岩石粉末試料を用いるため,試料融解の必要がありません.そのため,試料準備過程における人為的な試料の汚染の危険性を軽減することができます.岩石試料の分析の際は,下の写真(左)のように試料粉末を直径 1.3 cm程度の錠剤にして分析しています.また,この分析手法では,ホウ素は最も感度が高く検出限界が低い元素(米沢,2002)なので,即発ガンマ線分析はホウ素の定量に最適な手法であると言えます.

即発ガンマ線分析装置を用いた岩石試料中のホウ素定量分析手法の詳細は,Sano et al. (1999, JRNC) に記載されています.米沢先生や原研の皆様や佐野さん達のおかげで研究を進めることができています.



(左)中性子照射を待つ粉末試料たち. (右)JRR-3号炉ビームホール内のPGA装置

長谷中利昭教授(熊本大学),福岡孝昭教授(立正大学),佐野貴司博士(国立科学博物館),新正裕尚准教授(東京経済大学)と共同で分析しています.
これまでの研究成果
1.北部九州マントルへのスラブ起源流体の影響 (Miyoshi et al., 2008, JVGR
2.中部九州火山岩のホウ素量の島弧横断方向変化とスラブの形状 (Miyoshi et al., 2008, JRNC
3.南部九州マントルへのスラブ起源流体の影響 (Miyoshi et al., 2010, Geochem. J.
現在取り組んでいること

1. 日本列島第四紀火山岩類のホウ素含有量の空間変化.

2. 中部九州阿蘇地域に分布する玄武岩類のホウ素含有量の時間変化.

3. 九州の基盤岩類(深成岩,堆積岩,変成岩)のホウ素分析.

4. フィリピン海プレート,太平洋プレートの堆積物,変質玄武岩のホウ素分析.